主題;Lausitz辺境領/
     国内異語言語集団との共存

 

1.まえがき:

 ベルギーがオランダから独立して175年経つ。宗教はカトリックで統一されているのだが、国内を東西に走る言語線にて南北に分断され、北部はゲルマン系のフラマン語(オランダ語方言Flaemisch/Vlaams)、南部ではラテン系のワロン語(フランス語方言Walon)が話されている。

 10月4日付け朝日新聞の掲載記事によると首都ブリュッセル(両言語圏)から北西15Kmのオランダ語の町メルヒテム(Merchtem)では公立学校でのオランダ語以外の使用を禁止した。

 学校内では授業中はもとより休み時間、昼食時放課後も学校内でのフランス語が禁止となった。首都ブリュッセルは両言語地域ながらフランス語が優勢でブリュッセルに近いこの町では児童の15%は親ががオダンダ語を話せず父母との面談に通訳が必要になっている。

 オランダ語圏でフランス語が浸透して行くことに機感を持ち、ベルギーからの分離独立を主張しナチスに共感する政党(Vlaams Belang フランダースの利益)がこの地域で25.6%の支持を受けているとのこと。


2.ラウジッツ辺境伯領 (Markgrafschaft Lausitz):

 カール大帝はザクセン・チューリンゲン・バイエルン族を傘下に治め、774年にはイタリアを支配していたランゴバルド王国を手に入れその国王になった。

 800年にはローマ皇帝として戴冠する。9世紀初めにエルベ川中流域にSorbmark(ソルブ辺境領)・ピレネーの南にSpanischemark(スペイン辺境領)を創設する。

 フランク王国はカール大帝の孫の代の9世紀半ばに東・西・及びロタール(ロートリンゲン)/イタリアに分裂した。さらにロタールは東フランク(ドイツ)・西フランク(フランス)王国に分割併呑された。

 分裂後カール大帝の家系は断絶する。東フランク王国中心に話しを進めると、カール大帝に征服されたザクセン族であったが、919年にザクセン公ハインリッヒ一世がドイツ国王に選ばれた。
 ハインリッヒの子オットーはエルベ川/ザーレ川とオーデル川の間にいたスラブ人地域に辺境領Mark Lausitz(ラウジッツ)やMark Meissen(マイセン)を、ドナウ川中流にOstmarkを設置した。このOstmarkがいずれOestreich=オーストリアとなるのである。

 962年にオットー一世としてローマにて神聖ローマ初代皇帝となる。Mark Lausitzは14世紀後半にルクセンブルグ家ブランデンブルグ選帝侯所属の辺境伯爵領となった。


3.ソルブ人 (Sorben):

 ベルリンから南東100KmのところにCottbus(コトブス  人口10万人)という町がある。ポーランドとの国境ナイセ川まで約30Kmである。

 1200年に渡るドイツ人の殖民に耐え、スラブ系ソルブ語とその文化を伝え生き残った人々が住むなのである。

 コトブスから南西150Km離れたライプツィッヒ(Leipzig)はスラブ語のLipa・zig(=菩提樹のところ)を語源とする。
 旧東ドイツが第二次世界大戦後ソ連に占領され、鉄のカーテンによって東側に囲い込まれた理由は同地区にはスラブの痕跡が残っていた背景があったからなのである。

 和人入植から140年、北海道で町や村ごとアイヌ語を話すところはとうの昔になくなってしまった。しかしながら地名はほとんどがアイヌ語起源であるのは歴史の中で共通している。


4.ピアノマン:

 昨年の夏イギリスで保護されたピアノマンがどこの国から来たのか話題になった。イギリスでは、東欧系と見立てたのだがドイツ人であることが明らかになった。

 ピアノマンはバイエルン州北部のプロスブルグ(Ploessburg)出身であった。、プロスブルグはバイロイトから東へ50Km、チェコ国境沿いの村である。

 この地方に於いても、スラブ人とのせめぎ合いの歴史から東欧系の風貌がわずかに出ていたのをイギリス人は見逃さなかったと思われるのだが真偽は定かではない。


5.あとがき:

 10月初めアメリカ・ペンシルベニア州の小さな町でアーミッシュの少女5人が銃によって殺害さる事件があった。新聞のアーミッシュとはの解説に依ると、宗教的迫害を受けてヨーロッパ(アルザス)から1700年代にアメリカに渡ったキリスト教の一派で、近代文明を拒否し電気や自動車を使わず昔ながらの生活を営み、古いドイツ語を話す人々とのことであった。

 自分たちと違った言葉を話す人々が自分の隣りの地域にまとまって住んでいることに寛容なのは、今後幾百年経とうが周りが海に囲まれた日本人には理解出来ないことである。


参考文献:

 世界の歴史 中世ヨーロッパ゚ 堀米 庸三 中公文庫
 物語 ドイツの歴史 阿部 謹也 中公新書
 ドイツのことばと文化事典  小塩 節 講談社学術文庫
 Grosser Atlas Zur Weltgeschichte   Westermann
 世界民族言語地図 福井 正子訳
土田 滋+福井 勝義監修
東洋書林