主題;イギリス詩 5選

 

1.Daffodils 水仙

William Wordsworth(ウイリアム・ワーズワース: 1770~1850) 
I wander'd lonely as a cloud
That floats on high o'er vales and hills,

When all at once I saw a clrowd,

A host of golden daffodils,
Beside the lake, beneath the trees
Fluttering and dancing in the breeze.


Continuous as the stars that shine
And twinkle on the milky way,

They stretch'd in never-ending line
Along the margin of bay:
Ten thousand saw I at a glance,

Tossing their heads in sprightly dance.


以下2節略
谷を越え山を越えて空高く流れてゆく
白い一片の雲のように、私は独り悄然としてさまよっていた

すると、全く突如として、眼の前に花の群れが、
黄金色に輝く夥しい水仙の群れが、現れた。

湖の岸辺に沿い、樹々の緑に映え、そよ風に
吹かれながら、ゆらゆらと揺れ動き、躍っていたのだ。

夜空にかかる天の川に浮かぶ
煌めく星の群れのように、水仙の花はきれめなく、
入り江を縁どるかのように、はてしもなく、
蜿蜒と一本の線となって続いていた。
一目見ただけで、ゆうに一万本はあったと思う、
それが皆顔をあげ、嬉々として躍っていたのだ。

水仙といえばNarcissusと浮かぶのだが、Daffodilはらっぱ水仙のこと、この花はWalesの国花である。
 辞書によると元は「Leek(にら)であったが、Daffodilに代わった」とある。

2.Hohenlinden  ホーエン・リンデン

Thomas Cambell(トーマス・キャンベル:1777~1844)
On Liden, When the sun was low,
All bloodless lay the untrodden snow;
And dark as winter was the flow
Of Iser, rolling rapidly.

But Linden saw another sight,
When the drum beat at death of night
Commanding fires of death to light
The darkness of her scnery
以下3節略
T'is morn; but scarce yon level sun
Can pieace the war-cloud, rolling dun,
Where furious Frank and firey Hun
Shout in their sulphurous canopy.
一節略
Few, few shal part, where many meet !
The snow shall be their winding-sheet,
And every turf beneath their feet
Shall be soldier's sepulchre.

日西に傾き、リンデンの野に白雪霏霏、
ために人跡消え、血痕消ゆ。
イーゼルの大河、冬のごとく、
暗澹として滾(タギ)りて流る。


深夜となるに及び戦鼓轟き、
リンデンの場景忽ち一変。
戦鼓は、必殺の砲火を発して
暗黒の夜景に照明を命ず。

朝来たり、日低く出て輝かんと欲するも、
空に流るる戦雲に阻まれて昏し。
フランスとオーストリアの猛き両軍
拮抗し怒号す、硝煙の下。


密集隊形のまま、生還を期することなく進め!
白雪は汝らの屍衣、
踏み躙る草地は
汝らの墳墓の地。
 Hohenlinden(ホーエンリンデン)はMünchenの東30Kmにある村で1800年12月フランス・ナポレオン軍とオーストリア軍が戦い、オーストリアが大敗した場所である。フランスはフランク族に、オーストリアはフン族に擬えられた。Iser(Isar)はドナウの支流でミュンヘンはその河畔にある。

 チャーチルも第二次世界大戦時には、ドイツを指して「ラインの向こうの蛮族」と称したとのこと。 紀元前43年のローマ軍侵入以降ブリタニアは文明人になったとの意識か?

3.Child Harold's Pilgrimage チャイルドハロルドの巡礼

George Gordon Byron(ジョージ・ゴードン・バイロン:1788~1824) 
But who, of all the plunderers of yon fame 
Oh high, where Pallas linger'd, loth of flee
The latestrelic of her ancient reign;
The last, the worst, dull spoiler, who was he?
Blush, Caledoia! such thy son could be!
 

あの高みにある
彼方の神殿を略奪した全ての者の中で、
あの最後の、最悪の、愚か者は誰だったのか。
恥を知れ、カレドニアよ、あれが汝の子だったとは!

(中公新書  物語 大英博物館より)

England! I joy no child he was of thine;
Thy free-born men should spare what once was free;
Yet they, could violate each saddening shrine,
And bear these altars o!er the long-reluctant brine.
喜べアルビオン、汝の子には非ざりき。
自由に生まれし爾の子、自由のものをいたはらん、
さるを彼等の心なき--悲む祠堂をそこなひて。

(土井晩翠訳青空文庫倶楽部
「みんなの輪より」
バイロンはギリシャ独立戦争に共鳴してギリシャで死んでいる。
 「チャイルドハロルドの巡礼」はバイロンがスペイン・ギリシャ・イタリア・スイスなどを旅して詩集にしたもので、上記詩はその第2巻目に載せられている。

 1779年トルコ駐在イギリス大使として赴任したエルギン卿はスコットランドの貴族で当時トルコの支配下にあった、ギリシャのアテネへ行き、パルテノン神殿を飾っていた彫刻像を、トルコ政府の許可を得ていたとはいえ、10年の年月をかけて神殿の柱や壁から剥がし、イギリスへ持ち帰ったのである。


1811年バイロンは最後の積荷が運ばれる船に乗り合わせこれに憤激して詩にしたのである。
 カレドニアはスコットランドの旧称でありバイロンの母はスコットランド貴族の出であった。バイロンには半分スコットランドの血が流れていたのであった。
 ロンドンの大英博物館にはイギリス政府がエルギン卿から買い上げたこの彫刻象が展示されている。
ギリシャは1830年に独立し建国当初からイギリスに彫刻群を返還するよう求めているが、イギリスはこの返還を拒否している。イギリスの保存技術はすばらしく、またロンドンにあればこそ多くの人々がこれを見られるのだと。

その恩恵にあずかり、地中海の島々から発掘した彫刻・塑像・壺などやエジプトから持ち帰ったミイラやロゼッタストーンなどを見ることが出来たのだから。またイギリスのすごいところは、入館料が要らないことである。維持管理にはかなりの金がかかっているはずだが学術文化を担う心意気には恐れ入る。

チャールズ皇太子の父(即ちエリザベス女王の夫君)フィリップ・マウントバッテン・ウインザー公はギリシャの王政廃止によってイギリスへ亡命した国王の孫である。従ってチャールズ皇太子がイギリス国王になった暁にはこの彫刻群が返還されるかもしれない。
改:  
  資料4ではEnglandなのだが、下記Webサイトの土井晩翠訳ではアルビオンとなっている。これはスコットランドの旧称Caledoniaに対してイングランドの旧称であるAlbionを対比させたと思われる。
http://aozora.nishinari.or.jp/modules/news/article.php?storyid=15

 原詩を横浜市立図書館にて閲覧(第2編11節を)コピーした。
 yon(Ger.jener 向こう,そちらの )、thine(Ger.dein お前の)など古語を含め、知らない単語も多く難しい。

4.Pippa'Song ピパの歌

Robert Browning(ロバート・ブラウニング:1812~89) 
原詩 岩波文庫 上田敏訳
(海潮音/春の朝)
The year's at the spring
And day's at the morn;
Mornigg's at seven;
The hill-side's dew-pearled;
The lark's on the wing;
The snail's on the thorn;
God's in his heaven-
All's right with the world !

歳はめぐり、春きたり、
日はめぐり、朝きたる。
今、朝の七時、
山辺に真珠の露煌めく。
雲雀、青空を翔け、
蝸牛、棘の上を這う。
神、天にいまし給い、
地にはただ平和 !
時は春、
日は朝、
朝は七時、
片岡に露みちて、
揚雲雀なのりいで、
蝸牛枝に這ひ、
神、そらに知ろしめす。
すべて世は事も無し。
 上田敏の名訳で知られる詩「春の朝」の原題がピパの歌であった。thorn=棘は原罪か?

5.A Memory 思い出

William Allingham(ウイリアム・アリンガム:1824~89) 
Four ducks on a pond,
A grass bank beyond,
A blue sky of spring,
White clouds on the wing;
What a little thing
To remember for years-
To remember with tears !
池には四羽の鴨、
彼方の岸辺には緑の草、
春の青空、
流れる白雲-
とるにたらぬ風情ながら、
なぜか年がたつにつれ思い出す、
涙とともに思い出す !
この詩は31語からなり日本の和歌を意識して作られたと解説されている。
 31語の中に水・鳥・草・春・空・雲・追憶・涙と多数の言葉が入り、読み側の憶測が入り込む余地がないような感がする。

 韻を踏んでいるので声を出して読んでみると味が出てくるのか?

 鴨(雁がね)・和歌にて検索し、3首挙げてみた。
● 秋風に大和へ越ゆる雁がねは いや遠ざかる雲隠りつつ (万葉集)

● 我が心誰に語らん秋の空 萩に夕風雲に雁がね
 (竹林抄)
 権大僧都心敬=中世の完成期の連歌師(1406~1475)。和歌を歌人・正徹に学び、冷え・さびた境地を目指して和歌連 歌を詠む。音羽山麓の十往心院に住したが、応仁の乱を避けて関東に下向、諸国を流浪しつつ、関東武家の和歌連歌 の指導に当たり、相模大山に没した。
 (http://www.ris.ac.jp/kokubun/top.html)

● あし鴨の跡もさわがぬ水の江に なほすみがたく春やゆくらん
 (壬二集/江上暮春 藤原家隆)
(http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/saijiki/saijiki.html)
  

参考資料:

 イギリス名詩選 平井 正穂 編 岩波文庫
 物語 大英博物館 出口 保夫 中公新書
 国際情勢の見えない動きが見える本  田中 宇(さかい) PHP文庫
 研究社英文学業書(主幹岡倉由三郎/市河三喜)   非売品大正11年1月発行