主題;「置換えスケール」について

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2006/5/25 
 
 地球の歴史や生物の進化などの話をTVで見たり、聞いたりするとその時間が実感として掴めません。
  例えば、現世人類が発生した180万年前、恐竜が絶滅した時期=6500万年前、地球全体が凍結していたという仮説のある7億年前、更に最古の生物・ストロマトライトの化石の35億年前、はたまた太陽系の誕生の46億年前などと言われても、ただ古い時代のことなのだと思うだけです。
 この時間感覚を解りやすくするため、地球の歴史を一年あるいは、一日に置換える などはよく知れれています。そこで、ヒトの「一尋(ひとひろ);左右に広げ伸した両手先の間の長さ」で、どんな具合になるかを思いつきました。すると、今度は対比する側の値が小さくなりすぎて、これ又、良く分らないと言ったことになるかも知れませんが、どんな具合になるのを調べてみました。
 今回は、この置換えスケールのお話ですが、その前に地球の歴史の若干についてです。

1.地質時代

   地球の姿は、誕生したときから現在に至るまで、一様であった訳ではありません。太陽系の一つの惑星として出現したときから、変化しています。地球の歴史の中で、その表面に地殻と呼ばれる殻が出来てから、現世に至るまでの過去の時代を『地質時代』といいます。
 現在、知られている最古の岩石は約40億年前のものです。それより前の時代の地質記録は残っていません。ですから、地殻の形成、つまり地質時代の始まりは、今から40億年前に遡るものと考えられています。(1970年代は、35億年前とされていました。ですから、ここ35年の間に地質時代は、5億年も遡ったことになります。)
 この40億年の間、地殻や海洋はいろいろ変化し、地球を取り巻く大気の成分も変化してきました。海に誕生した生命は、次第に変化し、ついには人類のような高等な生物も誕生させました。地質時代の地球の歴史とは、地殻(岩圏)・海洋(水圏)・大気(気圏)、そして生命(生物圏)の歴史でもあります。

2.地質時代の区分

   時代の区分は、主として古生物の進化に基づいていて、過去における生物のある分類単位の出現の時期や、消滅の時期をもって時代区分の境としています。
 地質時代の古生物の遺体は、それが生息していた時代に形成された地層の中に、化石として保存されていることが多いので、地層の新旧の関係を調べることによって、その中に含まれる化石の新旧を知ることができます。
 「互いに重なり合う地層は、上に重なる地層のほうが下にあるものより新しい」という、単純明快な地層累重の法則を確立したスミス(W.Smith 1769~1839)は、同時に、「一つの地層は、その地層に特有な化石を含んでいて、それらの化石は、その上位や下位の地層には含まれていない」ということも明らかにしました。このことは、ある特定の化石種は、ある特定の時代に形成された地層の中にだけ存在するということを説明していて、古生物が時代を追って進化していることに基づき、地層や地質時代を区分する際の基礎となっています。すなわち、古い時代の地層には原始的な形態を示す古生物の化石が含まれ、新しい時代の地層中には、より高等な古生物の化石が増してきます。その変化は漸移的ですが、ときに急激に変化することがあります。このような時をもって、地質時代の区分とします。
 この地質時代の区分の大綱を確立したのは、ライエル(Sir C.Lyell 1797~1875)です。ライエルが1831年に著わした『地質学原理』の中で、地層や岩石を古い時代から順に第一紀・第二紀・第三紀・第四紀に区分しました。その後、様々な研究からライエルの区分は修正され、今では古いほうから始生代・原生代・古生代・中生代・新生代の五つの「代」という単位で区分されています(始生代・原生代は、先カンブリア時代として一括されることもあります)。ライエルの第一紀は古生代に、第二紀は中生代に、また第三紀・第四紀は新生代にほぼ相当します。
 代は、それぞれより細かい「紀」という単位に区分され、紀は、さらに「世」に区分され、さらに細分する際には「期」という単位が用いられています。

3.地質時代の長さ

   化石や地質系統にもとづいて区分された地質時代は、古いか新しいかという序列、つまり前後関係を示しましたが、時間的な長さは示されず、かろうじて長いとか短いという相対的な時間しか判りませんでした。過去のある時点から現在までの実際の時間的な長さを知り、区分された地質時代の序列に時間的な値を与えたものを、絶対年代といいます。
 絶対年代を知ることは、地質学者の長い間の夢でしたが、1950年頃から岩石中のある種の鉱物に含まれる放射性同位元素を測定することによって、それがある程度可能となってきました。即ち、放射性同位元素の崩壊は、それぞれある一定の半減期をもって行なわれ、他の元素に変わるので、放射性同位元素が鉱物の生成と同時に崩壊を始めたとすれば、崩壊によって生じた生成物と、まだ崩壊していない部分との現在の量をそれぞれ測定すれば、鉱物生成時から現在までの時間を知ることができるというものです。このようにして測定された年代を放射年代といいますが、これを絶対年代に近似するものとして扱っています。

4.地質時代表

   こうして地球が誕生した46億年前から現在までの地質を表に表わしたものが「地質時代表」と呼ばれるものです。
 ここに示した表は、2006年度版の理科年表によるものです。
表1.地質時代表

5.人体諸元
   置換える側の人の身体の諸元(機器の大きさを表わすときの用語です。)を調べてみました。しかし、家具の設計や車両、飛行機、宇宙船等の室内を設計する際に必要と思われる資料はありましたが、一尋(ひとひろ)については非常に少なく、一例だけを見つけることが出来ました。
 ここではその寸法を使うことにします。と言っても、アメリカ人・男性のデータでしたので、日本人の身長=170cm(やや高すぎますか)に換算しています。
表2.人体諸元表

   

6.置換え

 表1の年代区分を表2の値(=175.416cm)に置換えて、計算したものが、表3です。
表3.表 
 地質時代の出来事の主なものを拾い、置換えスケールに当てはめてみます。

1) 地球最古の岩石 40億年前

 現在、これ以前の時代の岩石は残っていません。表1の38億年前は始生代の始まりとされていますが、これは西グリーンランドの片麻岩を年代測定して得られた結果でした。しかし、最近(2000年初)、カナダのアカスタ地域で発見されたものが40億年前のものでした。ですから近い将来には、地質時代表は改訂されることになると思います。
 この時代を置換えスケールに当てはめてみますと(左手・中指の先端が地球誕生と「時」とします。以下同じです。)、左手首から42.79mm 肘に寄った側となります。腕時計をしていたとすれば、丁度その辺りでしょうか。

2) 最古の原核生物様化石 35億年前

 西グリーンランドのイアスという地域にありました。1970年代に発見されました。これは左肘から15.37mm 肩に寄ったところになります。
 現在地球に存在するすべての生命は、この時誕生したものから、連綿として継続しているとのことですから、生命の歴史は、驚き以外の何者でもありません。

3) カンブリア紀 5億4千万年前

 ここは右手首の手前、19.91mm の位置になります。
 左肘付近から一気に右手首前に飛びましたが、この間の生物の化石が殆ど残されていない時代です。しかし、地層に含まれる化石をたどっていくと、5億4千万年前から突然多様な動物化石が産出するようになります。このことはダーウィンの時代に知られていて、『種の起源』でも突然多細胞動物が出現することが大きな謎とされています。
 そして各地の地層の中から化石が多く産出することから、この時代以降の地質区分は、細かく区分されています。

4) 恐竜時代の終末 6500万年前

 ご存知の恐竜は、約3億年前(二畳記の直前)に出現し、6500万年前までの間、実に2億年以上にもわたって地球に君臨していました。その恐竜が6500万年前に絶滅しました。この時をもって地質時代的には白亜紀が終り、第三紀が始まったと位置付けています。
 この絶滅の謎は、長年地質学者の興味を引いていましたが、1980年カリフォルニア大学のアルバレス父子(L.Alvarez, W.Alvarez)は、衝撃的な仮説を発表しました。小天体が地球に衝突した結果、大異変が起って恐竜は滅びたというものです。
 これを置換えスケールに当てはめますと、右手中指の先端から24,79mmのところになります。丁度、中指第一関節の辺りでしょうか。
 この時以降、地球上の動物は、哺乳類が大勢を占めることとなり、それが現在まで続いています。

5) 現在

 表3をご覧いただくと、「完新世」の始まりが1万年前です。これをスケールでみると、0.0038mm 、つまり3.8μm です。 
 真核細胞は原生生物・菌類・植物・動物を構成する単位ですが、一般的にその直径は2μm より大きく100μm 以下と言われています(ヒトの細胞は直径数10μm )。ですから、3.8μm は、真核細胞の小さい側の大きさに相当することになり、我々の文明はこの中で起り、今があることになります。そして、1年を計算してみますと、0.38nm(ナノメータ)になります。
 細胞内にあるDNAは、丁度二本の録音テープを螺旋状に巻き付けられた二重螺旋型で、その直径は2nmと言われます。そしてDNAを構成するヌクレオチド(核酸塩基)の間隔が、0.34nmと言われます。ですから、置換えスケールで言えば1年がこの間隔に相当することになります。電子顕微鏡の世界となってしまいます。

 やはり、1万年前からはミクロン以下の世界となってしまいました。小生にとっては「ミリ」や「ミクロン」は実感できる範囲なのですが、それ以下になると想像の世界でしかなくなります。しかし、この置換えスケールでは、5億4千万年前から現在までが、ほぼ掌(てのひら)に入りますので、ある意味では判り易いものになりました。
 孫悟空の活躍がお釈迦様の掌の上であったとのことですが、多細胞の生物(この中にはヒトも入ります)も手のひらの上の出来事だとすれば、これも一つの見方だと気が付きました。

 ところで、掌の上に存在した生命は、その歴史の中で何回かの絶滅の危機に遭遇しています。天体の衝突による異変以外は、その原因は不明ですが、その度に、復原して現在に至っています。
 しかし、現在地球上の生物は、新たな危機に直面しています。COの増加による気温の上昇、つまり温暖化です。数億年かかって蓄積した“炭素”を人類は、200年(置換えスケールでは0.076μm )で燃やしてしまうのですから、異変でないはずがありません。これを“何とかせねば”と気付いた人類は、知恵を出し合って対策を実行しようといているのですが、これに反対してる“ヒト”が存在します。
 生物の進化には方向性はなく、行き当たりばったりに変化し、その変化がたまたま環境の変化に適応した生命として継続された結果が、「進化」と言われます。
 反対している“ヒト”は、生物(この中に人類が含まれていると良いのですが)の進化を確信しているに違いありません。だとすれば、これも一つの見識かも知れません。
話は辛いことになってきそうです。
今回はこの辺りで失礼を!
  

参考図書

理科年表 2006年度版 国立天文台編 丸善
人体測定マニュアル J・A・ローバックJr 朝倉書店
遺伝子を観る 山岸 秀夫 裳華房
大日本百科事典 小学館