主題;「天皇御璽」について:-
1.まえがき: |
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先月のNHK大河ドラマ「新撰組」で禁門の変のシーンが出た。明治維新前の文久三年(1863)に長州が朝廷での主導権を握るため長州派の公家に孝明天皇「大和行幸」の詔を出させたのである。 |
2.憲法第7条: |
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憲法第1章(第1条~8条)は天皇である。第7条は下記の通り。 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。 |
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現憲法下においても、全ての法律や条約・国会の召集/解散詔書ほか所謂認証官と呼ばれる官吏任免の辞令には天皇の国事行為として「天皇御璽」が押印されている。 内閣総理大臣・最高裁長官の任命は第6条によるが、最高裁判事、検事総長、高裁検事長、駐外国大使などは皇居にて、天皇によって認証されている。これが日本という国の姿を現しているのではないか。 |
3.印制: |
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701年大宝律令で規定され、養老二年(718)に公布された養老律令の注釈書『令義解』に内印方三寸、外印方二寸半とある。 内印とは「天皇御璽」であり、外印とは太政官印すなわち政府印のことである。 当時は唐尺が用いられ一尺は289mm、従って内印は289X0.3=87mm、外印は72mmとなる。 諸司印二寸二分、諸国印二寸と決められた。 一尺の長さは時代によって少しづつ長くなっていったようである。各地の寺院の柱間の距離変化から読み取れる。最終的には一尺が曲尺(かねしゃく)の303mmとなった。 |
4.日本国王之印: |
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室町幕府3代将軍足利義満と後円融天皇とは従兄弟同士であった。それは義満の母紀良子と後円融天皇の母紀仲子が姉妹であったからである。義満の野望は足利氏が天皇家をのっとろうしていたことであった。 義満は「明」成祖から日本国王に冊封され、義満の要求通り方三寸半(101mm)の金印「日本国王之印」*1を受取った。 「天皇御璽」を凌ぐ巨大印によって自分の権威が天皇を越えたことを知らしめたかったのである。 義満は息子義嗣の元服式を宮中にて、関白以下公家の列席のもと「親王」の格式をもって行った。即ち義嗣「立太子」の儀式であり次期天皇としての「皇太子」になったも同然であった。 しかしながら義満はこの後急死(暗殺)してしまう。4代将軍となった義持は明との交流をやめ、異母弟義嗣を殺してしまう。その後勘合貿易は復活し、室町幕府末期には西日本の大名大内氏は「日本国王之印」*1の印影から木製印を起こし明との貿易に使用していた。この木製印は大内氏から毛利氏に伝わり、現在山口県防府市の毛利博物館に展示されている。 豊臣秀吉の朝鮮出兵・文禄の役(韓国では壬辰倭乱と呼んで日本を蔑称/但し自国の年号が無いため干支にての表現)講和のため来日した明の使節が、金印「日本国王之印」*2を持参した。 明の神宗が秀吉を日本国王に冊封するとのことが明らかになり、秀吉はこれに激怒した。 この金印を大判金百五十枚に鋳直し、明の神宗からの貢物と言って時の後陽成天皇に献上した。 秀吉は朝廷から豊臣姓を賜り、方二寸九分の金印「豊臣」を作らせた。ところが曲尺で作ったためその大きさは88mmとなり「天皇御璽」を越えると知って驚愕したのである。直ちにこの金印を鋳潰した。 |
5.明治の改刻: |
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長い歴史の中で天皇御璽が失われ、何度か作り直しが行われたようである。江戸時代には曲尺方二寸七分(82mm)の銅印になっていた。 明治元年政府は曲尺方二寸四分の石印「大日本国璽」を新たに作るが、明治4年(1871)になって「天皇御璽」を方二寸七分の石印に変更し、あろうことか「大日本国璽」を方三寸(91mm)に改めている。即ち政府印が天皇印をはるかに超えているのだ。 明治7年(1874)になって「天皇御璽」及び「大日本国璽」を方三寸の金印(3.5Kg)に改めている。当時の政府高官は天皇と政府(国家)を同等と看做していたのだろうか。この金印は現在でも使用されていて宮内庁が管理している。 「天皇御璽」は2項で述べたが「大日本国璽」は文化勲章等勲記に押印される。
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6.あとがき: |
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国会で議決された法律に天皇は署名(御名)するが、さすがに御璽を押すことはないと思われる。しかしながらお付の役人が重さ3.5kgの金印を持ち上げ押すのかとの疑問が起こった。版画を刷る時のように見当あてに合わせ上からなぞるか、大内氏のような木製印があるのか。. |
参考資料
1. | 七つの金印 日本史アンダーワールド | 明石散人 | 講談社 |
2. | 謎ジパング 誰も知らない日本史 | 明石散人 | 講談社文庫 |
3. | 逆説の日本史 朝鮮出兵と秀吉の謎 | 井沢元彦 | 小学館 |
4. | 天皇になろうとした将軍 それからの太平記/足利義満のミステリー |
井沢元彦 | 小学館文庫 |