主題;「度合の数量化」

 

 日常の生活の中で、物事の感じや対象物の状態や状況を表す時に『形容詞』を用いて表現します。例えば、「長い」「良い」「重い」「大きい」「美しい」などの言葉です。
 そして、これらの形容詞によって表現されるものに程度の差がある場合があります。
 例えば、「美しい」と表現するときに、そこに差が認められれば、「とても」「非常に」「やや」などという言葉を用います。これらは、『副詞』といいます。

 今回は、この言葉(副詞)の数値化のお話です。

 ここに、「良さ」を表現する色々な副詞(嗜好表現用語と言うそうです)が示している「良さ」の大きさの度合いを数量化して示した研究成果があります。

 これを示すと下表の様になります。
 嗜好表現用語 尺度  嗜好表現用語 尺度
 とてつもなく 100.0 14  割合 52.3
 最も 98.8 15  比較的 45.2
 極端に 98.5 16  ちょっと 23.9
 とびきり 97.0 17  少し 22.0
 極めて 92.0 18  いくらか 20.1
 実に 91.0 19  若干 14.4
 すこぶる 90.6 20  やや 11.0
 非常に 89.0 21  わずかに 10.2
 特に 88.0 22  中ぐらいに 1.0
10  ばかに 82.0 23  と言うほどでもない -1.1
11  たいそう 78.1 24  とはいえない -7.3
12  相当 72.5 25  まるっきり -93.4
13  なかなか 69.5      
 
  当然のことですが、ここにある副詞(嗜好表現用語)は、人より受け取りかたが異なります。しかし、この表現が使われる理由の一つに、この言葉の受取り側では、一旦心の中で数量化します。
 つまり、これらの言葉は、主観的、定性的なものですが、数値化するすることによって、客観的、定量的に順位付けをすることによると思われます。

 ここで、やや乱暴ですが、この成果を日常のある場面で考えてみました。

 「どう、今晩ちょっと一杯?」などと云って、会社の同僚を誘うことがあります。
 会社の終業時刻から最終電車の時刻までの時間は、約5時間あるとします。「ちょっと」を上の表で見るとその尺度は、23.9です。これを「%」として、時間に換算すると1~1.5時間になります。
 この時間であれば、冷たいビールとおしゃべりは、気分転換をもたらします。また、これが酒量であれば、個人差もありますが、ほろ酔いの良い気分の領域と言えるでしょう。
 とすれば、「ちょっと一杯?」は、今日の疲れを癒し、明日の活力を与える有効な時間の過ごし方と言えます。

 この様な場合では、誘った側も、誘われた側も同じ尺度を持っていたことになり、適切な言葉の使い方といえます。

 一方、交渉、確認、打合せなどのやらあらゆる場面で「Perfect」「Absolutely」を連発する米国・代理店の社長がいました。これらの訳語が、「完全に」「絶対的に」としか記憶していない小生にとっては、大袈裟な表現をする欧米人は、我々とは違うなと感じていたものです。

 しかし、この言葉の尺度が不一致だったとすれば、あまり厳しいことも言わず、余裕のある気分の会話をすればよかったのにと思いますが、反省しても「今頃、遅いか」です。

 「良さ」を表現する色々な副詞具体的な数字として表したこの表は、「そうなの?」と思うものもありますが、納得する部分もあり、この研究成果は面白いものだと思います。

 「度合の数量化」などという、表題からすれば「統計の話」で、格調の高い話となるはずでしたが、何やら、些細な話となってしまいました。
 

蛇足ながら、この尺度が変化することがあるにもかかわらず、そのことを反省しない場合があります。

「ちょっと一杯?」で、喉を潤し、お喋りをしている内に、話が仕事に絡む人間関係や上司の悪口やらになって、気分が高揚してきます。すると、「酒量」は、何時の間にか「たいそう」から「極めて」となり、「時間」は「とびきり」となってしまいます。

この結果は、終電にもかかわらず下車駅を乗り過ごしたり、新調したスーツを何かに引っ掛けて破ってしまったり、転んでおでこに擦り傷をつけたりという事故も起こすことがあります。
そして、その翌日は、「最も」体調不良で仕事をするという悲惨なことに繋がります。つまり、「ちょっと」が、「最も」「極端に」まで変化してしまうのです。
 この「とてつもなく」の状態を自省して、暫くは平穏無事の生活を維持すべく、努力します。

 しかし、数日すると何処からともなく、「ちょっと一杯?」の声が上がります。後はご想像の通りです。

「何故だろう。何でだろう」は、今に始まった言葉ではありません。


ところで、「カトウ先生」、今も「とてつもなく」や「極端に」でしょうか。

 今回は、これで失礼を

 

 

参考図書

日常の数学事典 上野富美夫編 東京堂出版