話 題;1.「進化論」について
2.「江戸から東京へ」について
1.「進化論」について |
何回も書いている大袈裟な題目で恐縮です。 現生人類が出現して以来の秀才、天才の諸先輩方が悪戦苦闘している事柄を軽々しく持ち出して、あれこれ云うのもおこがましいのですが、今回も、お付合い下さい。 「人はサルから進化した」 この命題を最初に言い出した人が、チャールス・ダーウィンでした。 マルクスの「資本論」と並んで、近代史上最も巨大な衝撃を人間社会に与えたといわれる「種の起源」が出版されたのは1859年のことです。以来、数多くの新しい仮説が登場しては既成の理論とぶつかり合い、吸収しながら進化論は、絶え間のない変貌(これも進化というのでしょうか)を続けています。 現在、すべての生物の体内には「遺伝子」と呼ばれる世代を超えた情報の担い手が存在すること、この遺伝子が書き換えられることによって進化が起こるということまでは解明されました。 しかし、なぜ、子供の顔立ちが親に似ていて、場合によっては見ただけで血筋がわかるのか、なぜ、動物の本能的な行動が親から子へ伝わっていくのかの問いに、遺伝子レベルで答えを示せる人はいません。 生命の長い歴史の上で、時として、その遺伝子に起こる変化が、通常の時代とは比較にならない速さで進むように見える問題についても、やはり答えが示されていません。 そして、現代生物学の謎の一つとして、なぜ、有性生殖生物が生まれたのかという問題があります。 この地球に初めて生物が現れたときには、無性生殖生物でした。そこから何故、雄と雌の区別ができ、有性生殖が生まれたのか、です。その答えの一つに繁殖上の有利さではなく、遺伝子を組み換えことによって得られるものがあるとの、仮説がありあます。 「赤の女王仮説」と呼ばれるものです。 この仮説によれば、性による遺伝子の組み換えは、寄生者に対する対抗戦略として出現します。寄生者とは、ウィルス、細菌、寄生虫など、他の生物に取り付いて栄養を搾取する生き物です。取り付かれる生物を宿主(やどぬし)と呼びます。 寄生者対策と遺伝子の組み換えとの関係は、以下の通りです。 寄生者は、宿主にとって厄介なものです。生物は一般に、自分の身体の外側に膜を張って異物を入れないようにしていますし、入ってきた場合には、それを認識し追い出す仕組みも備えています。それらは、タンパク質でできた防御の壁のようなものです。 寄生者は、タンパク質の壁を破り、異物として認識されないような、また、されても完全に追い出されないような、タンパク質を持って入ってきます。宿主が防御の壁としているタンパク質も、その生物が持っている遺伝子によって作られます。ある遺伝子の組合せを持った生物は、ある特定のタンパク質の壁を作ります。そこで、無性生殖生物では、自分の身体がそのまま半分になって子ができるので、親と全く同じの防御の壁を持つことになります。 寄生者が、ある無性生殖の宿主の持つ防御の壁を破るタンパク質の鍵を開発したとすれば、その無性生殖の子の全部を、その宿主とすることが出来ることになります。 ところが、有性生殖生物は、雄と雌とが半分ずつの遺伝子を出し合って、新しい組合せの遺伝子を持った子を作ります。それ故、子は親と少し異なるタンパク質の防御の壁を持つことになります。そうなると、親の代では破ることができた防御の壁も破れなくなります。 しかし、子が生きている間に、寄生者も進化し、子の持つタンパク質の壁を破る鍵を見つけるかも知れません。それでも、孫ができるときにはまた、遺伝子を組み替えてしまうので、寄生者には容易に破られなくなります。 これこそが、有性であることの決定的な有利さであると考えるのが、この仮説です。 宿主と寄生者とは、宿主が防御する、寄生者がそれを破る、宿主が新たな防御を開発する、寄生者がそれをまた破る、というように、進化的軍拡競争の関係にあります。そこで、宿主は、寄生者から身を守るためには、常に、こちらのタンパク質の防御を変化させておかなければなりません。 つまり、生きていくためには、走り続けていなければならないのです。このことが、「不思議の国のアリス」の続編「鏡の国のアリス」に出てくる「赤の女王」の言うことに非常によく似ているので、この仮説にこの名が付いているとのことです。 雄と雌の区別があることの優位性を説明する、「赤の女王仮説」は有力ですが、何故、区別ができたかは謎です。雄と雌の違いを性差と呼びます。性差には、形態的なものだけでなく、成長の速度、生存率、行動様式などの側面に渡って広く見られます。何故、性差が存在するか。考えてみれば不思議なことです。雄と雌の違いが、精子を生産するか卵子を生産するかであるならば、配偶子の生産に関係ない、角やら美しい飾り羽根などにも違いが出るのはどうしてなのか、です。 こ のことを最初に疑問に思い、それを説明する理論を最初に提案したのは、やはりダーウィンだったのです。ダーウィンは、「自然淘汰」のプロセスのほかに、もう一つ別の、「性淘汰」というプロセスが働いているという理論の持ち出したのです。 これ以降のことは、稿を改めましょう。 話は変わります。 「雌雄を示す記号の由来」についてです。 現在、多くの人が「♂」は雄を示す記号、「♀」は雌をを示す記号としています。 この記号は、本来雄と雌には全く関係のないものでした。中世以来、占星術では「♂」は火星を、「♀」は金星を表していました。また、錬金術では、近世まで「♂」は鉄を、「♀」は銅の記号として流用していました。 分類学の権威リンネも『自然の体系』初版(1735年)の鉱物界の分類表で、錬金術の伝統に従い、中黒のある丸(太陽の象徴)を金、三日月形(月の象徴)を銀、そして「♂」は鉄を、「♀」は銅の記号として用しています。 ところが、同年に出版された『植物の種』の中で、第22綱・雌雄異株綱と第23綱・雌雄雑性綱の記号として「♂」と「♀」を用いたのです。 ですからこの記号の使用は、リンネからということになります。「♂」と「♀」は便利なので、今では生物学者もその由来について気付くことなく用いていますが、簡潔な記述を目指したリンネの功績は、ここでも大きいということになります。 俗説では、「♂」はマルスの盾、「♀」はビーナスの鏡を表しているということです。更に、専門家の研究では、「♂」は火星を表すギリシャ語の一つ「トゥーロス」の頭文字Θが変形したもの 「♀」は金星を表すギリシャ語の一つ「フオスフォロス」の頭文字Φが変形したものだということです。 「♂」と「♀」が本来、占星術の記号であったということですが、西洋文化の中における占星術の影響の大きさの一端を垣間見ることが出来ます。 |
ところで、今月の星占いは如何でした。 「・・・・・・・」 そうですか。それは結構ですね。益々のご活躍を祈ります。 |
2.「江戸から東京へ」ついて | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
今年は、江戸開府400年ということで、東京の各所で記念行事が行われたり、今後、様々な行事も予定されたりしています。 ですが、ここでは開府の時代ではなく、閉府(こんな言葉はありませんが)の時期についての出来事を書いて見ます。つまり、徳川幕府の瓦解、明治新政府の発足(明治維新)という時代の「江戸から東京へ」という話です。 西の方から起こった戦いは、次第に東へ移って来ました。銃声が九州や長州で轟いていた頃は、徳川様の威光を信じていた江戸の庶民も、それが京洛の地に近づくにつれ動揺の色を強めていました。そこへ、慶応4(1868)年正月、幕府軍が鳥羽伏見の戦い(# 5)に敗れ、将軍慶喜が大阪城を棄てて海路江戸へ戻るという事件(# 7)がおきたのです。 天下の大将軍が薩長の田舎侍に討たれて、命からがら逃げ帰ってきたという風聞は、たちまち市中に広がり、江戸庶民に驚天動地の衝撃を与えたに違いありません。 1月7日、徳川慶喜、追討令が下ります(# 8)。西郷隆盛の率いる統制軍が東海道を押し寄せてきます。官軍は三軍に分かれて関東に迫ってきます。春3月、高輪の薩摩藩邸で西郷は勝海舟と会見(#16)、翌4月無血江戸入城(#17)、それに憤怒した彰義隊二千の幕臣は、5月15日上野の森で、大村益次郎の指揮のもと轟々たる砲声にたった一日で潰滅しました(#25)。 7月、東京と改称(#31)、9月、明治と改元(#34)、10月、天皇は東京へ東光して来ました(#37)。明治2(1869)年3月、太政官を皇城に設置(#44)、5月、幕府軍最後の砦、箱館五稜郭が陥落。ここに太政官政府が全国を平定し、地位を確立したのです。 「菊は栄えて、葵は枯れる」とは、この時期の江戸っ子が感じた本心だったのでしょう。 そこで、この間の出来事をやや詳細な年表にしてみますと、次の様になります。
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この年表から、#1:「将軍 徳川慶喜、大政を奉還」⇒#36:「天皇、品川着」までの一年間で、徳川幕府の拠点『江戸』は、『東京』へと変わってしまったことが分かります。 江戸市民にとっては、疾風の如く、あれよあれよという間の出来事であったことでしょう。 |
「太平の眠りを覚ます蒸気船たった四杯で夜も眠れず」の作者も、「こんなことになるなんて」想像もしていなかったに違いありません。 |
参考図書
POPな進化論 「進化」の謎と不思議を推理する |
中原英臣 ・佐川 峻 監修 |
同文書院 |
進化とはなんだろうか | 長谷川眞理子 | 岩波ジュニア新書 |
博物学の欲望 ーリンネと時代精神 | 松永俊男 | 講談社現代新書 |
明治大正図誌 1 | 筑摩書房 | |
江戸から東京 (江戸東京博物館 ミュージアムセミナー 講演レジュメ) |
近松鴻二 | 江戸東京博物館 |