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茶杓と筒の作り方(3/3)

茶杓の製作/本作業編

目次

 

1

柾げ(曲げ)作業

 

2

削りの作業

 

3

仕上げ作業

 

4

茶杓作りのまとめ・点検

  

    

柾げ(曲げ)作業

  1) 準備
     乾燥している素材をそのまま柾げることは、ほとんど不可能である。そこで、素材に十分な水分を含ませることによって、繊維を柔かにする必要がある。
 水を入れたバケツに素材を漬ける。最初は全部浮き上がるが、2~3昼夜たつと、水分を十分吸収して重くなって素材は沈む。その後の処理に、次の通り二つの方法がある。
     沈んだ素材を引揚げて濡れた布で包み、さらに!昼夜置き、柾げに入る方法。この方法は西山松之助氏が『茶杓を作る』著書の中で説かれておられ、特に煤竹の縄目跡が美しく仕上るのにはよい方法である。
     沈んだ素材を3~4時間煮沸する方法がある。胡麻竹、煤竹などは、柾げる際に好結果が得られる。

 煤竹は縄目跡のない、しかも比較的肉厚なものの場合は煮沸した方がよいと思う。また、胡麻竹は柾げるのに苦労する素材でこれまた煮沸することがよい結果が出ると思う。
  2) 加熱
     柾げは、擢先となる部分に印を付けてあるので、その部分をローソク火で、灸り温め、表も裏も水に濡れたところが乾く感じになってくる。静かに急がず、ゆっくりと、焦げることのないよう、温めながら、柾がる僅かな手応えを感じ取りつつ、柾げること。
この時、ローソク火に近づけ過ぎないこと。10~20cm離す。
  3) 急冷
     柾げが完了したら急速に冷やすことである。柾げを定着させるためである。しかし、素材によっては元の形に戻る力が残っているので、これを防ぐために、素材の先端部分を紐で縛り、その紐を切止め部分まで伸ばして縛りつけ、柾げた姿を安定させる。
この縛りつける時の紐の強さで、緩やかなカーブとなったり、きつく柾げたままの姿であったり、茶杓の姿が決まることになる。
  4) 固定
  型木;
上;順樋用
下;逆樋用 
 型木に縛り付けた所
     茶杓は、中節を高くした形状(弓形)が殆どである。
この形を固定させるため型木を使用すると良い。
型木は順樋用と逆樋用とを用意する。順樋用は中節に当る部分の高さを1.0cmぐらい、逆樋用はO.5cmぐらいとしたものである。
    順樋用型木
型木にまず柾げた部分を縛りつけ、次に中節を型木の中心1.0cm高さのところに当て、切止付近を指先で静かに抑えて型木に密着させて縛る。
    逆樋用型木
型木は中節部分がO.5㎝1の高さのものであるから、節を当てて抑える際に、折れる心配は少ないと思うが、注意して取扱うこと。縛り方は順樋と同様である。
但し、直腰にしたい場合は型木の平な部分を使用して縛りつける。
  5) 乾燥
     型木に縛りつけた素材はこのまま日光に当て、風通しのよいところで3~4日乾燥させる。乾燥の具合は、素材の表皮の色がもとの色になり、擢先から切止までピンと張った紐が緩んでくるのが目安となる。
   型木から取りはずして、茶杓に削る準備は出来たことになる。

 


削りの作業

  1) 道具類
     この工程での道具類。
万力 木工用万力または横万力 1台
ビラニヤ鋸(商品名)、または手鋸 1丁
切出刀  片刃で良く切れるもの 1本
ヤスリ 半丸中目 幅12mm先細×長22cm 1本
    細目ヤスリ幅8mm先細×長!8cm 1本
ノギス 長さ20cmぐらい  1本
鉛筆、消しゴム 鉛筆の濃さは、2~4B 各1個
矩尺 長さ20~30cm  1本
  2) 茶杓の長さ
    擢先寸法
       柾軸の内側で計る。柾げの中心から2.0㎝の位置に印を付け、鉛筆で横線を引く。稀に2.1~2.2㎝のものも存在するが、多くは2.0cmで作られている。
    全長
       露先から切止までの寸法は、「茶杓の全長は畳の目数で13目である」と利休は教えている。
 13目は概ね18.5cmとなる。切止とする箇所に印を付け、横線を引く。
 一般には、この寸法を基準にしてよいと思うが、使用する茶碗に合わせる。あるいは、作者の作為、などから寸法を決めている場合がある。

 ここでは、露先から中節(横稜の高い方)までを8.5cm、中節から切止までを10.0cm 合計18.5cmを目途にして長さとする。
    素材を切断する。
       素材を万力に挟み、横線の箇所を、必ず表皮側から鋸挽きする。静かに鋸歯が跳ねないよう挽切る。
 素材を裏側から鋸挽きすると、表皮に「メクレ」が生じやすく茶杓にはならない。

 必ず、表側から作業することに留意する。
  3) 茶杓の幅
    表皮側に、ノギスを使って、幅を測り印をつけて、線引きする。
    擢先の幅。
       樋の幅を活かすことを心掛ける。このため、樋の中心を見出し、柾軸の幅は1.0㎝。擢先と柾軸の中問の幅は1.05~1.07cm。榴先は0.9cm前後に、それぞれ左右に印をつけて、線で結ぶ。
    中節の幅。
       中節の輻は0.6~0.7㎝として、横稜の高い方に、左右に印をつけ、柾軸1.0㎝のボイントと線で結ぶ。
    切止の幅。
       切止の幅は、0.5~0.55㎝とし、中節幅の左右のボイントと線で結ぶ。 
    茶杓の幅は、作為や美意識によって自由に決められるべきだと考えられるが、ここでは、初心者にとって解り易く、作り易い幅を示している。
  4) 全体を削り出す
     表皮に線引きした線に沿って擢先から切止に向かって切出刀で、切り下げるようにする。
 これとは逆に、切止から擢先に向けて切り上げることは、竹の繊維は直線に並んでいるので、広い幅が必要な部分を削り落すことになり、茶杓の形を作れない。
 必ず擢先から切止に向かって削り出すことを守って切出刀を使うようにする。
    擢先の削り
       前記に擢先から切止に向かって削ることを守って、と書いたが、擢先の中間から露先に向かっては、切り上げるように刀を使って、露先幅を0.9cm前後に仕上げる。
    擢先の中間からの左右の削り
       右側または左側、いずれでもよいのであるが、擢先中間から中節に向けて削り下げてゆき、次に中節から切止まで削り下げる。線に沿って、凹凸のないように、樋の縦稜の幅が、左右同じになるように、注意深く削ること。茶杓の左右のr美しい線」が生れるようにする。
 なお、指先で両側を挟み、ゆっくり上下に撫でてみると凹凸や削りそこねたところが、よくわかる。
また、柾軸と中節までの幅が、広いと間が抜けた感じがするので、削り狭めて、きびしい幅、きびしい線を出すよう調整して、美しい茶杓を作り出していただきたい。
    裏側の削り出し 「茶杓の部分解説/腰形」の項を参照
      a) 櫂先の裏側。
         櫂先の裏側は、両側の縁を表皮際(キワ)まで、小さな幅で削り、中心に向けて僅かずつ削るよう、そして山形も緩やかなものにする。
 お茶を掬う部分であるから、落しすぎないよう、さりとて厚くならないよう、程良い厚さを心掛けて欲しい。
      b) 枉げ軸から中節までの裏側削り。
         この部分の形は、船底型が良いと思う。両側の縁は表皮際まで、緩いカーブで削り、決して急角度で削り落さないように、茶杓のオットリした、好ましい姿のうちで、この裏側の削りが重要なものである。
 そして、裏側の中心部は、2~3mm幅で平らに削ること。
 これは茶入(棗)に乗せた際の安定した状態を保つため、特に配慮が必要である。
      c) 中節部分の削り。
         裏側の中節部分の削りは、順樋と逆樋では異なる。
        順樋の場合。
          素材自身の横稜が高く、且つ肉厚であるときは、雑子股・蟻腰を削り出すことができる。
 実竹は維子股・蟻腰のよく出来る素材である。
逆樋の場合。
 逆樋の素材の場合は、中節裏は維子股・蟻腰には削らない。
 枝の付根の部分は、肉が薄く、従ってこの部分を削り過ぎると折れ易い。故に、「直腰(すく'こし)」に削る訳である。
      d) 中節から切止まで。
         中節裏から切止までの削りも、船底形を念頭において、表皮際まで、ゆるやかなカーブをつくるよう、丸みを出し、削ることが肝要である。
 ただし、茶入(秦)に乗せたとき安定を良くするために、幅0.2cmぐらいは平らに削ることを忘れないで欲しい。
  5) 露先を整える。「茶杓の部分解説/櫂先」の項を参照
     擢先から切止めまで全体の表・裏の削りが終了し、茶杓の姿がほぼ見えてきたら、露先の製作に取りかかる。
 露先の形は、 付図一1の「茶杓の名称」の左側下段に5種示してあるが、この中から素材に最適と思うものを選定する。
 素材の持っ良さ、それぞれを活かす形、作意の表現など茶杓の良否を決定するのも、露先如何と考えられる。  付図ー3
  6) 全体を調整する。
     全体の姿の調整は、ヤスリで行う。
◆ まず露先を立派に仕上る。
◆ 次に擢先全体の形を調える。すなわち擢先の中問が最も幅広で、柾軸までの左右の線がバランスよくできたかどうかをみる。
◆ 柾軸→中節→切止の左右の線が美しく削れたか、凹凸はないか、僅かな狂いも見逃さないよう、ヤスリ掛けして、調整する。
◆ 茶入(棗)に乗せて、傾きはないか、擢先は直立しているか、もし狂いがあったら修正する。
◆ 雑子股・蟻腰がある場合には、特に細心の注意を払い、傾きのないよう、美しい姿を実現して欲しい。

仕上げ作業

  1) 道具類
     この工程で必要とするものは、次の通り。
カッターナイフ。
または、片刃小刀。
  1本
砥草 砥草を乾燥して小幅板に張り付けたもの。(6×18×160m㎜) 1本
水ぺ一パーヤスリ #1000~1200。 1枚
  もしくは、ブロックサンダー Y201(商品名)を用いると便利である。 1個
エメロンペーパーヤスリ :#1500~2000  1枚
羽二重布 艶出しに用いる。 1枚
  2) 削ぎ(そぎ)作業
     削りが終了して茶杓の形となった素材の肌を丁寧に、カッターナイフ、または片刃小刀で、裏側をそぐ作業を行う。
  3) 粗磨き
     砥草板、もしくはブロヅクサンダーY201を用いて、左右の線を優しく、撫でるように磨く。
 裏側の竹の筋(繊維)が浮かんでみえてくるように磨くことがコツとなる。
 さらに、水べ一パーヤスリで磨く(水べ一パーヤスリは水をつけない)。続けてエメロンペーパーで最後の磨きをかけるとかなりの艶がでてくると思う。

 (注) この段階で茶杓を茶入(秦)に乗せて狂いの有無、擢先の直立を確認する。
  4) 仕上磨き
     前項の「粗磨き」に続いて羽二重切れで磨く。この工程は省略することはできない。
  5) 最終の作業
    切止の加工(仕上げ)
       切止作業は、茶杓に命を与える作業と考え、切出し小刀で鋭く切り込む。
 切止の形は付図一1の「茶杓の名称」の左側に側面図が6種示してある。 この中から最適と思われるものを選ぶ。
 切止の切る角度は、急峻な傾斜が望ましいと思う。刀をあて一気に力をこめて切る。キレイな切口をつくることである。
    露先の裏の加工(仕上げ)
       露先の裏の切込裏側の露先左右の所を僅かな幅で中心で合致するよう切り込む。
 表皮際を切込といった方が解り易いかも知れない。

茶杓作りのまとめ・点検

   出来上がった茶杓を、茶入棗)に乗せて、擢先は垂直に立っているか、また、横から見ても、安定した感じかどうか、よく確認する。
   さらに、手にとって、茶杓の見所を辿ってみる。
◆ うちがい(内擢)榴先を表から見る。
◆ そとがい(外擢)擢先を裏から見る。
◆ きじもも(雑子股)中節裏のj割ったところ。蟻腰と共に見る。
◆ っゆさき(露先)その作り方を見る。

 これらの名のある箇所が、どのように作り上げてあるか。また、全体の印象、刀の冴え、削りと柾げ具合、側面、裏面全体も見て、もし、手直しをした方が良い部分があれば、直ぐ修正をすることが肝要である。
   竹は自然のものである。それが幾人かの手を煩し、自らの手元に渡り、多くの工程を経て茶杓にすることが出来た。
 仕上がった茶杓が茶席で使用され、観賞され、評価されて多くの時間を過ごすことを望みたい。