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茶杓と筒の作り方 (1/3)

茶杓と筒の名称と解説、 及び茶杓各部の寸法

目 次

 

1

茶杓とは

 

2

茶杓の部分名称

 

3

茶杓の部分解説

 

4

筒の部分名称

 

5

筒の削り

 

茶杓の寸法

     

 


茶杓とは

 
 

 茶杓とは、茶入れや棗から抹茶をすくい茶碗に移すために使われる道具です。
 抹茶を点てて飲む方法は中国から伝わりました。しかし、中国ではこの道具を茶杓とは呼ばず、茶匙と呼び、その材料は、金、銀、象牙、鼈甲(べっこう)などで作られていたとのことです。

 この方法が伝えられた時代の茶杓、または、茶匙がどの様な形をしていたのかは、よく分からないとのことですが、現存する最も古いものとして、村田珠光の作といわれるものがあります。
 この珠光作と伝えられるものには、三種類があり、
 一つ目は、中国風の象牙茶杓
 二つ目は、樋のない瓢箪型の茶瓢(さひょう)
 そして、三つ目は、笹葉(ささは)と呼ばれているもので、
 一つ目の象牙茶杓の形は、今でいうところの節なしの真の長茶杓であり、二つ目のものは、横からの姿には殆ど反りがなく、節をかなり上方へ置き節上、節下とも瓢形(ひさごがた)に削ったものです。
 また、三つ目の笹葉(これには足利義政作との伝承もあるようです)は、節をやや上方に置き、節上はかなり幅広に削り、節から上を大きく湾曲させているものです。これらのどれもが現在目にするものと大きく異なった形をしています。

 現在「茶杓」と言った場合の典型的な形は、千利休によって始められました。即ち、杓体の中ほどに節を置いた『利休形』といわれるものです。

 茶杓の中央部に節を置き、茶入れの上に据える目安とし、又、その見映えや印象の重点を構成しています。この実用と鑑賞を考慮に入れての造形感覚には、感服します。ですから、利休以降はこの形が主流となり、その形式は現在に至るまで変わっていません。

 そんなことですから、私どもが作るもの、そして、「展示棚」ここでご覧になっていただく茶杓も『利休形』が大部分を占めています。

 

茶杓の部分名称

   茶杓の各々の部分には、名称が付けられています。
 そして、これらの名称の箇所は、茶杓の見所です。
1) 節 :フシ
2) 櫂先:カイサキ
3) 撓め:タメ、もしくは、タワメ
4) 腰形:コシガタ
5) 切止:キリトメ
 

茶杓の部分解説

  1) 節:フシ
     節は、普通、茶杓の中ほどにあり、これを中節(なかふし)といいます。この中節から上の部分を「節上(ふしうえ)」、下の方を「節下(ふしした)」、もしくは、「持方(もちかた)、追取(おつとり)」と呼びます。
 この節が中央より上へ寄っていると上り節(あがりふし)の茶杓、
下がっていると下り節(くだりふし)の茶杓といい、節が最末端にあるものを節止(ふしどめ)の茶杓と呼びます。

 また、節がないものを<無節(むふし)の茶杓と呼ばれています。
節の位置によって、茶杓の印象は大きく変化します。
 2) 櫂先:カイサキ
   茶をすくう部分を『櫂先』と呼びます。
そして、その先端部を『露先』といい、右図の様な種類があります。

利休形といわれる茶杓は、丸形です。茶杓の中では最も一般的です。
 3) 撓め:タメ、もしくは、タワメ
   櫂先を枉げている部分を『撓め』と呼びます。
『撓め』は、3種類に分けられます。

『撓め』の種類(形)によっても、その曲げの大きさ・程度によって、茶杓の印象は大きく変わります。
『撓め』の作業は、茶杓作製工程の中でも初期の段階に行います。
ですから、竹材を選定した時点で完成時の形を想定して、どの形に枉げるかを決めることとなります。作者にとっての楽しみの一つです。
 4) 腰形:コシガタ
   節裏の形を『腰形』と呼びます。
 竹のの素材と樋の採り方により、次のようになります。節が高く順樋の場合は、節に沿って深く削り込むのを 「蟻腰(ありこし)」といいます。

 逆樋、もしくは節が低い場合に、平らに削ったものを「直腰(すぐこし)」といいます。
 5) 切止:キリドメ
   茶杓の最下端部を『切止』と呼びます。

 茶杓の作製作業の仕上げに行います。茶杓の持つ印象を大切にして、決めます。

筒の部分名称

     筒は、茶杓の「入れ物」と言うだけのものではありません。
筒の表(おもて)に、銘や作者名、落款・花押を書きつけることによって、茶杓に寄せる諸々の事柄を表すものです。

茶杓の作者が作った筒を特に「共筒(ともづつ」と呼びます。
 また、茶杓が単体で伝わったものに、後世の人が筒を作って作者名を書き入れたものを追筒(おいづつ)若しくは、極筒(きわめづつ)と言います。
  1) 詰 蓋
     材料は、杉材が大半です。柾目で木目の詰まり、赤味であれば最上です。
  2) 〆印
     図例では「と」の変形文字としていますが、一般的には「〆」の文字が多いようです。
「〆」の代わりに花押や焼印、切り込み等のものがあります。
  3)
     銘は、作者その人自身の心や教養が表れるとされるます。
また、茶道具との取り合わせでも、大きな意味を持つものと言われます。これまでにつけられてきた銘を見ると、次の様になります。
* 花鳥風月から採ったもの
* 茶杓の形から採ったもの
* 禅語から採ったもの
 しかし、これらには入らないものも多く残っていて、ある意味では、自由勝手に付けていいようです。とは言え、お茶の道具ですから、その精神の範囲を守ることが必要となります。
 茶杓の作者としては、折々に銘に親しんでおくことが大切です。
  4) 作者印
     製作者の印を記します。

筒の削り

  1) 真削り:シン ノ ケズリ
     表皮を削ぎとって、きれいに仕上げたもの。
右図;右側
  2) 行削り:ギョウ ノ ケズリ
     下を緩やかで、長短の刀目をいれたもの。上下がわずかに細くなっているものもあります。
右図;中央
  3) 草削り:ソウ ノ ケズリ
     表皮の削ぎを自由に変化させたもの。
右図;左側

茶杓の寸法

 
   利休は、茶杓の全長を畳の目数で13目と教えています。これを換算すると、ほぼ18.5cmとなります。ほとんどの茶杓は、この長さを基準にして±1.0cm内外で作られています。勿論、例外は多く存在します。

* 利休作の茶杓の寸法      (単位:mm)

長さ 全長 17.8
  擢先柾軸の中心から露先まで 20.0
柾軸部 9.0
  中節 6.0
  切止 5.0
肉厚   概ね 2.0
 
 事例として、利休作の茶杓の寸法を記すと、右の様になっています。
     
   茶杓は、個性的なものですので、初めは手本に迷まよいます。
 無難なのは利休を手本としてその造形を学ぶことが良いでしょう。

 その寸法を示すと、右の様になります。

* 利休形の参考寸法      (単位:mm)

長さ 全長 180.0~185.0
  擢先柾軸の中心から露先まで 20.0
柾軸部 10.0
  中節 6.0~7.0
  切止 5.5~6.0
肉厚 擢先 1.5
  中節 2.0~2.5
  切止 2.0~3.0
   肉厚は、素材によりますので、おおよその値を示しています。